不審なナースコール

怪談

看護師として働いていると、時折何とも説明のつかない奇妙な体験にみまわれることがあります。
霊感の強い同僚は、よく誰もいないはずの廊下にぼんやりとした人影を目撃したり、夜な夜なシクシクとすすり泣く声を聞いたりするそうです。
私は霊感が強くはないのであまりそういう体験はしてこなかったのですが、先日ひとつ恐ろしい目にあいました。

ある晩夜勤していた時の事です。
ナースコールが響き、その病室の患者さんの様子を見に行くと、特に変わった様子もなくすやすやお休みになっていました。
わざわざ起こすのもな、と思い、脈などチェックして異常が無い事を確かめて戻りました。

すると、戻った途端、またナースコールが鳴り響いたのです。
同じ患者さんでした。

不審に思いながらも病室へ駆けつけて、今度は患者さんをゆすり起こし事情を聞きました。
すると、その方は「ナースコールなんて押してない」と言うのです。

何も無いなら良いけれど・・・という事で戻ってしばらくすると、またあの患者さんからナースコールが来ました。

機械の不具合か、患者さんの嫌がらせか、何なんだろう、と思いながらも、呼び出されたからには様子を見にいかなければなりませんから、私はしぶしぶ病室へと足を運びました。

患者さんは眠っていました。

一緒に夜勤を担当していた看護師も不審がっていたので、私はしばらくその患者さんのそばにいて様子を見る事にしました。
特に患者さんに異変は見られませんでしたが、少し時間が経つと眠ったままの患者さんの身体が突然痙攣するように動いたのです。

驚いて、思わず「大丈夫ですか!?」と声をかけましたが、患者さんは目を覚まさずビクンビクンと痙攣し続けていました。
そして、手をナースコールボタンに伸ばして押したのです。
本人に意識は無いようでした。

一種の夢遊病のような症状なのかもしれない、そう思い、私は患者さんが目を覚ますよう必死に訴えかけました。しかし患者さんは何かに憑かれたようにナースコールボタンを押し続けていました。

同僚の看護師のパタパタという足音が聞こえ、患者さんはようやく静かになりました。すやすやと寝息を立てて痙攣もおさまりました。
先ほどまでの様子があまりにも異常だったので、何が起きたのか分からず同僚に話すと、同僚は考え込むように顔をしかめて、「もしかして・・・」と呟きました。

患者さんが落ち着いたのを確認し、私たちは一旦ナースセンターに戻ったのですが、またナースコールがビービーとけたたましい音を立てはじました。

同僚はそれを聞いて、昔の患者のリストを引っ張り出してきました。
そして猛然とページをめくり「あった!」と叫びました。

同僚の話によると、昔この病棟で執拗にナースコールを鳴らして看護師を困らせていた患者がいたらしく、次第にコールが鳴っても看護師がすぐに駆けつけなくなったというのです。
そして、その患者は本当に自分の容態が急変した時にナースコールを押したものの、看護師の到着が遅くなり、手遅れになってしまったそうです。

「なんだか狼少年みたいですね・・・」

私はそう呟きました。

「そう、それで逆恨みしたというか、怨念を残していったようで、あの病室のあのベッドの患者さんに取り憑いて身体を乗っ取ってナースコールを押させるって噂が流れてたんだよね・・・」

この話を聞いて、私はゾッとしました。
どうにかあの患者さんのベッドを移せないものかと同僚に相談し、同僚も「あの時の事情を知ってる人にかけあってみる」と言い、ひとまずその日はどれほどナースコールが鳴っても無視をしました。

しつこく鳴り響くナースコールは耳障りで、霊が鳴らしていると思うと恐怖心でいっぱいになりました。

翌日、例の患者さんはベッドが変わったらしく、それ以降不要なナースコールも鳴らなくなりました。

やはりあれは霊のしわざだったのでしょうか・・・