散文/詩

◆飛行機雲◆
(ソネット風)

青い絵の具を溶かした
バケツの中の水面に
白い絵の具をつけた
細い細い筆先で
シュッ
と一筋描いたような

自然と人工の調和
しかし
決して自然に溶け込むことなく
青い青い空の真ん中に
一筋ぽっかり浮んでいる

涙で少し滲んだような
白い白い
飛行機雲

◆秋◆
(ソネット風)

今年もまたやって来た
恋の季節
吹き抜ける北風が
楓の頬を赤く染め
並木通りの銀杏の落ち葉と
ふわり ふわり
円舞曲を踊る

私もあなたと
並木通りで
ステップを踏む
向かい合う二人の頬が
赤く色付いているのは
沈んでいく
夕陽のせいかしら

◆白昼夢◆
(散文風)

背丈の短い浅緑の草は
優しいそよ風に頬を撫でられ
さわさわ さわさわ
静かな寝息を立てておりました

眠れる草々の広がる野原の真中に
優しいそよ風がゆるりと吹き抜け
ゆっくり ゆっくり
静かに回るメリーゴーランドがありました

陶器でできた白い馬は
優しいそよ風を硝子の眼で見上げ
いつも いつも
羨ましいと思っておりました

白い馬は
眠りに落ちても 夢から覚めても
同じ景色しか見たことがありませんでしたから
空を自由に駆け巡って
色々の所を気ままに旅する
自由なそよ風が
とても とても
羨ましく思えたのです

  貴方は何故そんなにも悲しい眼をして
  この私を見つめるのです

  風よ
  私はあなたになりたい
  あなたのように自由な身となりたいのです
  私の背中を通っているこの細い棒は
  私をずっとここに留めています
  私は一生同じ景色しか見られない

そよ風は
困ったように微笑み
何も言わずに 白い馬を深い眠りに誘います

そよ風は知っていたのです
白い馬を野原の真中に留めているあの細い棒は
同時に
白い馬の硝子のような儚く不安定な心を
世界の数多い無情と混沌から守っているのだということを

背丈の短い浅緑の草は
優しいそよ風に頬を撫でられ
さわさわ さわさわ
静かな寝息をたてておりました

眠れる草々の広がる野原の真中では
優しいそよ風がゆるりと吹き抜け
きれいな きれいな
子守唄を歌っております

陶器でできた白い馬は
優しいそよ風がその硝子の心に映し出す
儚い 儚い
世界の美しい部分だけの夢を見て
深い 深い
眠りに身をゆだねております

優しいそよ風は
悲しい一欠片の微笑を
白い馬のたてがみにそっと投げかけ
何も言わずに去って行きました

そよ風のいなくなった広い野原は
まだ
しずかに しずかに
微かな寝息をたてておりました

◆私は歩き始めた◆

私は歩き始めた
あの子どもらの輪の中に
光を携えて
時を、埋めるために

 銃を構える精悍な父と
 戦火に倒れ物言わぬ父と
 二人の父の姿を描いた一枚の絵

 暴力の記憶が甦り
 身体と心の傷が疼くのか
 虚空を睨みつける少女の瞳

私はなりたい
哀しみや苦しみや痛みを呼覚ます
忌わしい時間を埋める、光に
遊びに興じる無邪気な彼らの
眩しい笑顔を照らす、光に

私は歩き始めた
あの子どもらの輪の中に
光を携えて
時を、埋めるために